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相続法改正について

“相続法”とは、民法第5編「相続」(民法第882~1044条)で規定されている条文の総称で、【総則】【相続】【遺言】【遺留分】の4つで組み立てられています。

人の死亡に伴う財産承継に関する基本法としてとても重要な役目を果たし、相続に関する紛争はこの相続法によって処理されます。

 

また、金融機関にとっても縁が深い法律といえます。預金業務においての相続預金の取扱い、信託銀行においての遺言信託や遺産整理業務の取扱い、銀行本体でも当該業務の媒介業務を取り扱う例が多数あるからです。

 

そんな相続法について平成26年1月から平成27年1月まで法務省において相続法制検討ワーキングチームが設置されました。

そして平成27年4月から現在に至るまで法務省の法制審議会において相続法の改正が議論されています。

 

法制審議会における相続法改正で検討されている項目について紹介します。

1.配偶者の居住権を保護するための方策

・配偶者の居住権の短期的保護

・配偶者の居住権の長期的保護

 

2.遺産分割に関する見直し

・配偶者相続分の見直し

・可分債権の遺産分割における取扱い

・一部分割の要件および残余の遺産分割における規律の明確化等

 

3.遺言制度に関する見直し

・自筆証書遺言の方式緩和

・遺言事項および遺言の効力等に関する見直し

・自筆証書遺言の保管制度の創設

・遺言執行者の権限の明確化等

 

4.遺留分制度に関する見直し

・遺留分減殺請求権の効力および法的性質の見直し

・遺留分の算定方法の見直し

・遺留分侵害額の算定における債務の取扱いに関する見直し

 

5.相続人以外の者の貢献を考慮するための方策

 

 

 

相続法が改正されれば、金融機関も実務上対応が必要になる項目が多く、特に「可分債権の遺産分割における取扱い」は、預金業務に大きな影響を与えることが予測されるため、以下ではこの点に関する議論について紹介します。

 

1.現行の相続法の問題点について

(金融機関にとっての問題点)

現在の判例上、預金は、預金者に相続が生じた場合、相続の開始により法律上当然に分割され、各相続人が相続分に応じて預金債権を承継するとされています。

この結果、相続が生じた場合、各相続人は金融機関に対して各自が相続分に応じた預金の払い戻しを請求することができると考えられています。

 

しかし、これは金融機関自らが、誰が相続人であり、誰がいくらの相続分を有するかを判断しなければならず、二重払いとなるリスクがあります。

 

例えば、相続人間で遺言の存在や有効性に争いがある場合や、預金を含めて遺産分割協議が成立する可能性がある場合などでは、遺言の有効性や遺産分割協議の成立の有無により、預金の取得者が変わります。

これは金融機関が知りえない事情を数多く含み、現状では、金融機関自らがこれを確認・判断しなければならないのです。

 

結果的に過誤払いになったとしても、準占有者弁済として金融機関が免責されるケースは多々あると思われますが、免責が認められるためには、法律上、金融機関が善意無過失であることが要件となるため、善意無過失であると認められない場合には免責とはならず、二重払いしなくてはならないリスクも否定できません。

 

このような事情もあり、金融機関では、相続預金の払い戻しにあたり、原則、相続人全員の同意を得たうえで預金の払い戻しに応じてきました。

現在、過誤払いの可能性が低いと判断した場合には、一部の相続人からの相続分に応じた払い戻しにも応じていることもあると思われます。

 

(相続人にとっての問題点)

相続が生じた場合、原則、誰がどの遺産を取得するかについて、相続人間で遺産分割協議を行う必要があります。

 

しかし、現行実務では、現金や投資信託、国債、郵便局の定額貯金等については、遺産分割の対象に含まれる一方、預金については、法律上当然に分割されると考えられているため、原則として預金は遺産分割の対象から除外され、相続人全員の合意がある場合に限り、遺産分割の対象となるという取扱いがなされています。

これについては、他の金融商品との辻褄も合わず、バランスがとれていないのではないかとの指摘をかねてからなされていたところです。

また、預金を遺産分割において対象とすることができないため、遺産分割において柔軟な調整が難しくなる場合もあります。

 

相続人にとって、より深刻なのは寄与分や特別受益があるケースです。

 

例えば、相続財産が預金のみで、相続人間で預金を遺産分割の対象とする合意が得られない場合、仮に相続人の一人のみが被相続人の療養看護をして寄与分が認められたとしても、寄与分に応じて相続預金の分割をすることができません。

 

特別受益がある場合も同様で、相続分の前渡しとして一部の相続人にのみ生前贈与を行っていた場合でも、預金が遺産分割対象から外されてしまうと、特別受益を加味した相続預金の分割を行うことができません。

 

以上のように、現行の相続預金の考え方は、多方面において問題があると考えられています。

 

 

2.相続法改正による改善

現行の相続法の問題点に対し、相続法改正では次のような考え方が提案されています。

 

①預貯金債権等の可分債権を遺産分割の対象に含めるものとする

②(甲案)相続の開始により可分債権は法定相続分に応じて分割承継され、各相続人は、原

則として、遺産分割前でも、分割された債権を行使することができるものとする。

(乙案)相続人は、遺産分割が終了するまでの間は、相続人全員の同意がある場合を除き、

原則として、可分債権を行使することができないものとする。

③遺産分割において各相続人の具体的相続分を算定する際には、可分債権の相続開始時の

金額を相続財産の額に含めるものとする。

④相続開始後遺産分割終了時までの間に、可分債権について弁済を受けた相続人について

は、その取得した金額を具体的相続分から控除するものとする。

⑤相続人が遺産分割前に弁済を受けた額がその具体的相続分を超過する場合には、遺産分

割において、その超過額につきその相続人に金銭支払い債務を負担させるものとする。

 

上記①により、預金は遺産分割の対象となります。

上記③により、預金が具体的相続分算定の際の相続財産の額に含まれるので、特別受益や寄与分の計算において、預金を相続財産の額に含めて計算することになります。

 

遺産分割が終了するまで、各相続人が相続預金の払い戻しが一切できないとするかについては、上記②のとおり、現在も見解が分かれています。

相続預金の払い戻しが一切できないとなると、葬儀費用の支払や、相続人の便宜に沿わないことも考えられるため、上記②乙案でも、例外的に預金債権の行使を認める制度(仮払制度)が検討されています。

 

なお、遺産分割協議前に払い戻しをした場合、最終的な具体的相続分との間で調整が必要になるため、上記④および⑤のように、払戻分を具体的相続分から控除したり、払戻分が具体的相続分を超過した場合には返還させたりするものとしています。

 

上記の他にも、遺産分割協議が成立した場合や、遺言がある場合における金融機関の免責を認める方策も考えられています。

 

現在、預金が遺産分割の対象になるかどうかが争われた審判の審理が最高裁の大法廷に回付されており、上記預金の取扱いは、今後相続法改正の前に、判例変更される可能性があり、この大法廷の結論も、改正案に対して、大きな影響を及ぼすものと考えられます。

逆に、現在の相続法改正の議論が判例変更に影響を与えることもあるかもしれません。

 

相続法改正の議論は、まだ議論途上のものであり、今後考え方が変わることもおおいにありえます。また、上記以外についても、様々な議論がなされており、実際の相続法改正はまだ少し先のことです。

私達の日常生活に関わりの深い相続法の改正について、今後も議論状況を見守っていきたいと思います。